飛騨産業、大塚家具社長が「スローファニチャー」の会を発足!街の家具屋が思うこと

2019年4月26日、GWの前日に家具業界では珍しくメディアに取り上げられるようなニュースがありました。

 

当店の地元、飛騨の家具メーカー飛騨産業さんの岡田社長と大塚家具さんの社長が代表発起人となって、「スローファニチャー」の会の発足を発表しました。

 

衣・食の業界と比べるとメディアに出ることが少ない家具業界において、地元の企業が代表となって、新しい消費スタイルを提言するなんて、とても誇らしいことです。少し、この「スローファニチャー」について街の家具屋として考えていることを書いてみます。(整理の途中ですが、あまり読まれることもないので、一旦アップします。)

スローファニチャーとは?

スローファニチャーは造語です。直訳すると「ゆっくりとした、緩やかな家具」。家具に早いも遅いもありませんが、異業種の「ファストフード」「ファストファッション」という言葉から考えるとだいたいはイメージが付きます。食・衣の業界では最近は対義語として「スローフード」「スローファッション」という言葉も生まれ、新たな消費の価値観が生まれてきています。

 

住の業界は食・衣と比べるとまだまだ関心が低く、だからこそ消費傾向やトレンドを示すような言葉もこれまでほとんど定着いしていません。そういう意味では、「スローファニチャー」という言葉・消費を提唱するということにも大きな価値があるんじゃないかと思います。

 

発表によると、 

スローファニチャーとは、デザインや機能、使い心地が優れているだけでなく、長い期間、安全に、機能や使い心地を損なうことなく使い続けられるものです。そして、その背景にストーリーがあるものです。

という定義だそうです。長く使える優れたデザインや耐久性、機能、さらにその背景に作り手や素材のストーリーがあるものを言うようです。

 

さらに、

近年、家具・インテリアの分野でも「ファストファニチャー」ともいうべき、数年で「消費される」家具が普及しています。ファストフードやファストファッションの例を見てもファストファニチャーが受け入れられるのは頷けることです。一方で、伝統的な食材を使ったスローフードや、簡単に使い捨てしない長く愛せるスローファッションの価値が見直されているのも事実です。家具・インテリアの分野でも「スローファニチャー」の深い味わいを多くの人に享受していただけるよう努めてまいります。

 

と書いてありました。家具・インテリア業界の中ではニ〇リが圧倒的なシェアを取り、成長し続けていますから、そのアンチテーゼ的な意味合いもあるんだと推測できます。

 

最近(せっかくなので平成)の家具の消費動向

 

細かい数字や参照データは割愛しますが、平成の30年間で家具の市場規模は半分以下になりました。バブルの絶頂期から市場規模は縮小の一途です。ここ10年くらいは緩やかに横ばい・微増・下降を繰り返しています。

自分の業界のことながら、とても、とても厳しい業界ですね。実際に平成の30年間で県内の家具屋も多く廃業になっています。市場が衰退したのには日本全体の景気の影響も大いにありますが、家具特有の大きな理由は3つくらい考えられます。

 

家具の市場規模が半分以下になったわけ

①そもそも使わない・買わない家具が増えた

平成初期のころは結婚するときに「婚礼家具」というものを買うという習慣がありました。和服を入れるタンスや、良い服を掛ける洋服タンス。セットで100万円するようなものがたくさんありました。結婚自体が簡易なものになったということもありますが、和服を着なくなり、服自体が安くなってきたので、わざわざ服を良い家具に入れる必要がなくなってきました。

また、最初から家にクローゼットや食器を入れる棚が付いているというケースも増えてきています。②にも影響するのでしょうが、家が減ってきているからこそ、少しでも家自体の価値を高めるために、家具の機能が最初から家に付属するようになってきました。

結果的に、今家具の主役はソファ、ベッド、ダイニングセットこの3つ大きくなりました。

 

②新築が減った

家具はそんなに頻繁に買うものではないですが、一番の大きなきっかけは「新築」です。年間で200万件も新たに家が建っていた時代から、年間で新たに100万件以下しか建たなくなってきました。その分、リフォーム市場は盛り上がっていますが、やはり新築時の家具の買い替えを補うほどではありません。

 

③家具の単価が下がった

やはり大きな影響はニトリです。購買頻度が多くない家具は、ユーザーにとっては不透明な部分も多かったのですが、明朗な価格設定と海外生産と規模の経済で低価格を実現しました。ニトリなどの台頭で、競争が生まれ、効率化によって同品質のものが安くなった面もありますが、デフレ以降とにかく安価なものが求められ、「安かろう悪かろう」といえるような家具が多く出回ってきたのも事実です。

 

家具の売り手の変化

平成の30年で市場規模が小さくなるだけでなく、売り手にも大きな変化がありました。ここでは大きく4つ紹介します。

・ニトリの台頭

一番大きいのは、やはりニトリです。縮小し続ける市場で、拡大を続け、年商は5,000億以上。圧倒的な市場シェアを持っています。その裏には淘汰の波で廃業になった企業がたくさんいます。これは家具に限らず、どの業界でも起きていることかもしれません。

 

・ホームセンター化

ナフコ、島忠など大型家具の専門店がより裾野の広い、ホームセンターへ移行することで事業を拡大・維持しています。

 

・売り手の多様化

家具を売るのではなく、ライフスタイル提案する「インテリアショップ」が増えて来ました。また服屋が家具を売ったり、個人が自分で作った家具屋、使った家具を気軽に売れる時代になってきました。家具は家具屋が売るモノという時代ではなくなってきました。

 

・EC化

そして4つ目は、販売手段ですが、インターネットでの販売が圧倒的に増えて来ました。直近では家具も15%以上がネット通販で売れています。もちろん、ニトリや無印といった企業もネット通販に力を入れています。またネットだけで販売する企業も増えて来ました。

 

これ以外にも世界一の家具屋「IKEA」も大きな存在です。当店のような街の家具屋も生き延びているのは珍しいケースかもしれません。

 

 

家具の買い手の変化

売る側だけでなく、買い手にも変化がありました。ここも3つ挙げたいと思います。

 

・低単価志向

 これはデフレ以降の大きな傾向です

・家具の情報量のアップ

 インターネット、スマホの普及で誰でも簡単に家具について調べることができるようになり、格段に売り手と買い手の情報格差は埋まってきました。これには弊害もあり、売り手は良い面ばかりを発信するので、誤った商品認識をする方もいらっしゃいます。

・住の暮らしへの興味

 SNSの普及、特に写真を使ったインスタグラムやroomclipといったSNSの影響で格段に家の中の暮らしに興味を持つ方がふえてきました。日本は衣食に比較して、住は遅れていると言われるのですが、そこに少しずつ明るい兆しが生まれてきました。

 

 

なぜファストファニチャーばかりではダメなの?

安くて、すぐ消費してしまう(壊れたり、買い替えたり)ものをファストファニチャーだとすると、インテリアを気軽に楽しむという面ではとても良いことです。事実、ニトリのおかげで誰でも気軽に広い意味でのインテリア楽しめるようになりました。当店でも安価で、気軽に買える家具も多く取り揃えています。

 

ただ、安いものにはワケがあります。もちろん企業努力で安くなっている面もありますが、素材の質を落としたり、場合によっては製造工程の手間を省いたり、不正な労働力や木材を使っているものもあります。

 

家具は暮らしに寄り添い、長く使うものです。素材は体にも影響します。また大きなものですので、材料の確保や処分は自然環境にも大きな影響を与えます。そして、安価なものに淘汰されたものの中には優れた技術が詰まった商品もあります。生産の多くを海外にゆだねることで、家具の作り手は減り、技術の維持は難しくなっていると言います。

 

需要がないから淘汰されるのは仕方がない面もありますが、技術や文化は長い目で見れば日本の大きな財産なのではないでしょうか。

 

「安いものでも工夫して暮らしを楽しむ」というのは良いのですが、「安かろう悪かろう」と割り切り、とりあえずそういったものに囲まれて暮らすというのあまりにももったいないと思うのです。

 

スローファニチャーな暮らしに必要なもの

スローファニチャーは家具というよりは、暮らし、ライフスタイルの提唱だと思っています。必要なものは高い家具でもなく、「自分の暮らしを大切にする」「暮らしで使うものを大切にする」という考え方ではないでしょうか。

 

「暮らし」を大切にするからこそ、作り手や、素材にも興味を持つようになるのだと思います。また大切にするからこそ、長い視点で考えるようになります。

 

家具屋の役割はなんだろう

自分の家具を初めて買うような働き世代は、なかなか日々の暮らしをゆっくり見つめることがむずかしいのも事実です。特に共働きが増え、子供を育てているとなおさら、とりあえずの家具で過ごしてしまいがちです。

だからこそ「暮らし」へちょっと興味をもってもらう、そのきっかけになるのが家具屋の役割なんだろうなと。

 

という自戒も込めて、平成最後の時に書いてみました。